「市場はあるか」を、勘で決めない ― 広告が打てないニッチ製品で、参入をどう判断したか
Amazonコラム / 商品開発・市場参入 / 読了目安:約15分
新しい商品を出すとき、いちばん怖いのは「売れなかったらどうしよう」ではありません。「そもそも、その市場は本当に在るのか」を確かめないまま走り出すことです。
この記事は、私たちがあるメーカー様と進めている新規商品の開発を題材に、勘や勢いではなく、数字で「市場の有無」を確かめてから参入を決めた過程を公開します。これは特殊な商材の話ではなく、業種を問わず使える「参入判断の型」の実例です。
※ この事例は、当社がAmazon展開を支援しているあるCBD系メーカー様と進めている新規商品開発のものです。題材の製品は成人向けの雑貨(コックリング=シリコン製のリング雑貨)で、製品ジャンルはそのまま記載しますが、クライアント名・競合ブランド名・仕入先・具体的な金額は伏せ、市場規模や採算は相対値や割合でお見せします。本記事の主題はあくまで「市場の有無をどう確かめ、参入をどう判断したか」という意思決定の型です。数値はすべて、当社が実際の検討に用いたデータに基づきます。
1. なぜ「広告が打てない市場」をあえて狙うのか
話は、あるCBD系メーカー様のAmazon販売支援から始まりました。その関係の延長で「新しい収益の柱を作れないか」という相談をいただき、候補に挙がったのが成人向けの雑貨という市場でした。
成人向けの雑貨には、ひとつ大きな特徴があります。Amazon広告も、Google広告も、Yahoo!広告も、原則すべて出稿できないのです。普通に考えれば「集客手段が封じられている=不利な市場」です。多くの会社はここで候補から外します。
ですが、私たちは逆に読みました。「広告が打てない」ということは、後発が広告費を積んで一気に追い抜く、という戦い方が成立しない市場だということです。つまり、
すでに自社メディアや既存の集客導線を持っている事業者だけが、構造的に優位に立てる市場——これが狙いの核心でした。今回のクライアント様は、すでにその領域で見られているメディアとSNSを持っています。「広告NG」という一見の弱点が、メディアを持つ側にとっては参入障壁=味方に反転する。ここに勝ち筋があると考えました。
そのうえで、成人向け雑貨の中から具体的な製品を1つ選ぶ段階に入ります。複数のジャンルを「①規制・出品停止リスク ②原価 ③検索需要」の3条件で並べ、すべてを満たしたのがコックリングでした。理由は4つです。
① 規制リスクが小さい
電気を使わない単純なシリコン雑貨として登録できるため、法規制(電気用品・医療機器など)の対象になりにくく、出品停止リスクが最小。
② 原価が圧倒的に安い
構造が単純な小物のため、製造原価が販売価格に対して非常に低く抑えられる。価格競争に耐える体力を持てる。
③ 検索需要が十分にある
指名検索・一般検索ともに、毎月一定の検索が立っている。「誰も探していない」市場ではない。
④ 「当たり判定」が早い
小さな投資で出せるので、続けるか撤退するかを短期間・少額で判断できる。失敗しても致命傷にならない。
2. 市場の有無は「海外の実売データ」で確かめる
候補が決まっても、まだ参入は決めません。次にやったのは、「この市場に、お金を払う人が本当にいるのか」を自分の感想抜きで確かめることです。
ここで使ったのが「先に伸びている海外市場の実売データを、需要の代理指標にする」という手法です。同じカテゴリで先行している海外Amazonの上位商品について、販売規模・レビュー数・評価・カテゴリ順位(BSR)を取得し、「この商品ジャンルは、現実にこれだけ売れている」という事実を確認しました。
結論は明快でした。海外では、同種の商品が安定して大量に売れている。レビューは数千件規模で積み上がり、評価も高い。需要は「あるかもしれない」ではなく「すでに実証されている」と判断できる水準でした。一方、日本市場には同じだけのレビュー資産を持つ専業プレイヤーが見当たらない。つまり需要は証明済み・供給は手薄。これが参入を後押しする最初の根拠になりました。
海外上位3商品の「レビューの厚み」(最大=100とした相対比)
ポイントは、「自分が売りたいかどうか」ではなく「すでに売れている事実があるか」から入ること。海外の実売データは、自社の願望が混ざらない“他人の財布”の記録です。需要の有無を確かめる最初の一歩として、これ以上に正直な指標はありません。
3. 国内市場の地形:競合の厚みと「空白」
需要があると分かったら、次は「日本で、誰が、どう戦っているか」を地図にします。価格帯・強み・弱みで主要プレイヤーを並べると、市場の地形が見えてきました。
| プレイヤー類型 | 価格帯 | 強み | 弱み(=こちらの余地) |
|---|---|---|---|
| 海外OEMの無印・乱立品 | 下限 | とにかく安い | 日本語の説明・サポートが弱い/ブランド不在 |
| 大手メーカー系 | 上限 | ブランド力・信頼 | 価格が高く、ニッチ形状は手薄 |
| 空いている中間帯 | 中 | 日本語のていねいな説明・サポート+ブランドで戦える“専業”が不在=ここが狙い目 | |
地形はシンプルでした。「最安の無印品」と「高い大手」に二極化していて、その間が空いている。しかも無印品はLP(商品ページ)や問い合わせ対応の品質が低い。日本語でていねいに説明し、ブランドとして信頼を積む“専業”がいない。需要は実証済み・上位は薄い・中間は空白——参入余地は十分にある、という二つ目の根拠です。
4. 原価は「完成品から逆引き」で詰める
「売れそう」だけでは事業になりません。その値段で、利益が残るのか。ここを詰めるために、海外で実際に売れている完成品を起点に、画像から製造元を逆引きで探すという調べ方をしました。
やり方はこうです。売れている完成品の商品画像を、画像検索で現地(中国)の調達プラットフォームにかけ、同型を作っている製造元の候補を洗い出す。テキスト検索だと規制ワードでブロックされてしまう領域なので、画像検索が突破口になりました。出てきた製造元を「取引実績・再購入率・出店年数・取り扱い種類」で評価し、有力な候補を数社に絞り込みます。
結果として分かったのは、原価が海外での販売価格の十数分の一以下に収まるという低原価構造でした。これなら、無印の安売り品と価格で殴り合わずとも、中間帯で十分な利幅を確保できる。「売れる」と「儲かる」の両方に、別々のデータで裏が取れたことになります。
※ 具体的な原価・売価・粗利率、製造元の社名は機密のため伏せています。ここでお伝えしたいのは金額そのものではなく、「完成品 → 製造元 → 原価」と逆向きにたどれば、参入前に採算の見当がつけられるという調べ方の型です。
5. 「進める」と決めた判断ロジック
ここまでの材料を、提案書(社内・クライアント向けのPPT)では3つの問いに整理しました。これが「進める」と決めた判断の骨格です。
問い①:なぜ、この市場か?
広告が打てない=メディアを持つ側だけが勝てる市場。クライアントはその条件を満たす数少ない事業者。
問い②:なぜ、この1商品に集中するのか?
規制リスクが最小で、原価が安く、当たり判定が早い。あれこれ手を広げず、まず1点で勝ち筋を確かめる。
問い③:失敗したら、どれだけ痛いのか?
初期投資を小さく抑えられるため、外れても損失は限定的。撤退も容易。逆に当たれば大きく伸びる。
この3問の答えが指していたのは、ひとつの方針です。
この事業の性格
小さく賭けて、早く見極める
想定最大損失に対し、初年度の見込み粗利は概ね「十数倍以上」の非対称な賭け
数字の細部は伏せますが、構図は「負けても小さく、勝てば大きい」という非対称な賭けです。最大損失が小さいからこそ、迷っている時間より「まず試す」価値が上回る。ここで初めて「進める」と判断しました。需要(海外実売)・余地(国内地形)・採算(逆引き原価)・リスク(非対称性)の4点すべてに、別々の根拠で裏が取れてからの決定です。
6. 商品設計:1パッケージを起点にした「階段」
参入を決めたら、次は「どう売るか」の設計です。いきなり多品種を並べるのではなく、お客様に一段ずつ上ってもらう「階段」を引きました。これは私たちがECで日常的に使う考え方そのものです。
Phase 3
プレミアムセット | ブランドの「顔」・贈答にも耐える上位商品
価格で戦わず「ここでしか買えない」という意味で売る
▲ 一段ずつ上ってもらう
Phase 2
単品リフィル | 気に入った形状を買い足す。リピート・LTVの主戦場
メディア・LINE経由の限定導線で継続購入につなげる
▲
Phase 1(起点)
複数形状の「お試しセット」 | 1パッケージで何種類かを試せる
「どれが合うか分からない」という最初の不安を、セットで解消する入口
起点は「複数の形状をひとつのパッケージで試せるお試しセット」。この市場の最初の不安は「自分にどれが合うか分からない」です。だからまず全部試せる入口を置き、気に入ったものを単品で買い足してもらい(Phase2)、最終的にブランドの上位商品へ(Phase3)。差別化の柱は日本語のていねいな説明とサポート・セット販売・既存メディアからの流入・レビューの先行蓄積。広告が打てないぶん、メディアとレビューで「先に信頼を積んだ者が勝つ」設計です。
ブランド保全のため、支援先の本体ブランド(CBD系)とは別ストア・別ブランド・無地配送で運用します。本業のブランドイメージに、新規事業のリスクを波及させない。これも参入設計の一部です。
7. 提案書はV5→V11で何を削ったか
ここが、この事例でいちばんお見せしたい部分です。提案書は一発で完成したわけではありません。V5からV11まで版を重ね、そのたびに「楽観」を削り、「現実」に寄せていきました。提案書は飾る書類ではなく、意思決定を磨くための“過程の記録”として使っています。
| 版 | 性格 | このとき何を変えたか |
|---|---|---|
| V5 | 初版・構想 | 3年ロードマップや横展開まで含む“壮大版”。ジャンル選定の論理を構築。 |
| V8 | 現実方向へ補正 | 初期投資を引き上げ(商標・デザイン費を計上)、リターン倍率を下方修正。「事業の前に確認すべきこと」スライドを新設し、メディアの実数値・体制をクライアントに問う。 |
| V11 | 実行計画へ | 壮大な構想を捨て、「1商品集中・直仕入れ・四半期内ローンチ」の実行計画へ全面再編。製造元を数社特定し、サンプル発注済みと明記。倍率もさらに現実的な水準に。 |
V5の「夢のある3年計画」から、V11の「地に足のついた実行計画」へ。初期投資は上方修正し、期待リターンは下方修正——つまり版を重ねるほど数字は“地味”になっていきました。これは後退ではありません。
提案を作りながら、自分たちの楽観を自分たちで潰していく。原価を願望ではなく実値で積み、確認事項を文書化し、最後はサンプルを実際に発注して机上から現実へ移す。「いい提案書」とは、見栄えではなく「迷いどころが正直に削り込まれている」もののことだと考えています。
8. いまの正直な現在地
では、いまどこまで進んでいるのか。正直にお伝えします。
2026年6月時点
企画確定 → 製造元の特定 → サンプル発注済み
いまは「サンプルの着荷・品質検証待ち」の段階。
撮影・商品ページ制作・出品はこの先で、売上の結果はまだ出ていません。
成果はまだありません。それでもこの事例を公開するのは、「市場があるかをどう確かめ、どんな順番で根拠を積み、なぜ進めると決めたか」という考え方こそ、いちばんお見せしたい部分だからです。結果が出たら、また正直にご報告します。
9. 業種を問わず使える「参入判断の型」
題材は特殊な商材ですが、私たちがたどった手順は、新商品でも新規事業でも新店舗でも同じように使えます。型としてまとめます。
「売りたいか」ではなく「すでに売れているか」から入る
需要の有無は、自分の願望ではなく“他人の財布の記録”(先行市場の実売データ)で確かめる。
制約を「弱み」ではなく「味方」として読み替える
広告が打てない・参入が面倒——その不利が、すでに条件を満たす自分にとっては参入障壁になることがある。
「売れる」と「儲かる」を、別々の根拠で確かめる
需要(実売データ)と採算(逆引き原価)は別物。両方に裏が取れて初めて事業になる。
小さく賭けて、早く見極める
最大損失を小さく設計すれば「まず試す」が正解になる。撤退基準を先に決めておく。
計画は「楽観を削る過程」として磨く
提案書は飾るものではない。版を重ねて原価を実値に、期待を現実に。最後は実際に動いて机上を出る。
「この商品、出して大丈夫だろうか」と迷ったとき
私たちがまずやるのは、勢いでの「いけます!」でも、不安からの「やめましょう」でもありません。市場が本当に在るのかを数字で確かめ、採算を逆引きで詰め、小さく試せる形に落とすことです。
新商品・新規事業・Amazon展開のご相談、まずは「そもそも市場があるのか」の見立てからお手伝いします。