動いている仕組みを、なぜわざわざ作り替えたのか 現場管理アプリ「デズラ」で考えた、設計の判断
業務改善コラム / 現場DX・業務アプリ / 読了目安:約9分
これは、うちの本業であるAmazon・ECとは少し違う事例です。知人(建設業の親方)の「出面(でづら)管理」を、
現場管理アプリ「デズラ」(dezura.site)として作り直し、いまも私が運用しています。
先に言うておくと、これは「導入したら〇〇が△分になりました」という成果自慢の記事やありません。
もともとはスマホのメモで現場ごとに管理していたものを、まず表計算シート(Googleスプレッドシート)と、そこに書ける簡単な自動処理で仕組み化して、それなりに回る状態にしていました。
それでも専用アプリへ作り替えたのは、なぜか――どんな手札を並べて、なぜその設計にしたのか。考えた中身をそのまま書きます。
1. 出発点:メモ管理を、まず私たちがスプレッドシートで自動化した
声をかけてくれたのは、建設の現場を持つ知人でした。「現場の出勤管理が手間だ」という話で、当時は 現場ごとに、スマホのメモ帳で人の出入りを書き留めている状態。手元では分かっても、締めや集計はすべて手作業でした。
それで私がまず作ったのが、表計算シートと、そこに書ける簡単な自動処理(決まった作業をひとりでにこなす短い命令書のようなもの)を組み合わせた仕組みです。
- 誰が・どの現場に・何日出たかを表計算で記録する
- 締め日が来たら、その期間ぶんを一枚のPDFに自動でまとめる
- できあがったPDFを、指定したメールアドレスへ自動で送る
これで「手書きを集計する」手間はなくなって、いったんは業務が回る状態になりました。 ――普通ならここで「解決」です。でも次に頭に浮かんだのは、「便利にはなった。 けど、このまま人や現場が増えても回るんかな?」でした。
2. 「動く」と「続く」は別だ、という気づき
はっきり気づいたのは、別の親方から「うちのぶんも、もう一枚シートを作ってほしい」と言われたときでした。 やろうと思えばできます。でもそこで手が止まりました。人が増えるたびにシートを足していくやり方は、すぐに管理しきれなくなるな、と。 ほんまの課題は「手間」やなくて、増えても続けられる構造になっていないことでした。
① 増やすと破綻する
親方や現場が増えるたびにシートを足す方式では、すぐに管理しきれない。今後ほかの人に頼まれたときに、広げていく余地がない。
② 現場ではスマホが主役
スプレッドシートは事務所のPC前提。現場で働く人がその場でスマホからサッと記録する、という形になっていない。
③ 業界特有の事情
「人工(にんく)」という単位や、月末でない締め日など、既製の枠に収まらない部分を手作業で吸収していた。
「いま動いているか」と「人が増えても、誰でも回せるか」は、まったく別の問いやと思ってます。 私が見ていたのは後者でした。シートを足し続けるより、誰が来てもスマホで使えて、増えても破綻しない土台に変えることが本題やった。

3. 手札を全部出して、却下理由まで言葉にする
課題が「増えても続けられる形にする」やと分かれば、打ち手は一つやありません。いきなり「アプリ作りましょう」とは言わずに、 まず選べる手札を全部並べて、それぞれの向き・不向きを正直に書き出しました。
| 手札 | 向いている点 | 向いていない点(正直に) |
|---|---|---|
| 案A 既製の勤怠管理サービス(月額で借りて使うネットサービス)を入れる |
○ すぐ使える/自分たちで作らなくていい | × 「人工」「特殊な締め日」「元請へ書類送付」など建設特有の流れに合わない。機能が多すぎて現場が迷う |
| 案B いまの表計算を改良し続ける |
○ 慣れた形のまま/追加の費用が小さい | × 一番の課題=増やしても回る形にならない。スマホで現場入力にするのも無理がある |
| 案C 専用アプリを作る |
○ この現場の事情ちょうどに作れる/運用もうちで引き受けられる | × 作る手間・時間がかかる。作った側が運用責任を負い続ける |
選んだのは案C(専用アプリ)でした。決め手は、課題が「機能不足」やなくて「業界特有の流れと、人や現場が増えても続けられるかどうか」やった点です。 そこは既製品では埋まらんし、表計算の改良でも解けない。だから作る、と決めました。 同時に「作る手間と運用責任はうちが背負う」という案Cの弱点も、最初から引き受ける前提で進めています。 都合の良い面だけで選ばない。これは自分に言い聞かせてることでもあります。
4. なぜその設計を選んだか(4つの判断)
アプリを作ると決めてからは、「何を載せるか」より「何を載せないか」にいちばん時間を使いました。現場の人が毎日さわるものは、単純なほど続くと思ってます。代表的な判断を4つ書きます。
判断① ログインは「LINEだけ」。専用パスワードは作らない
パソコンやスマホに慣れてない方ほど、「新しい会員番号とパスワードを覚える」の段階でやめてしまいます。なので普段使ってるLINEでそのまま入れる形にしました。 おまけで、自前でパスワードを預からんぶん守るものが減って、安全面でも楽になります。
判断② 「メニューを開かない前提」で日常を回す
締め日のお知らせや明細は、LINEのメッセージで届きます。ボタンを押したらその画面に直接着地して、終わったらLINEに戻る。 「アプリを開いて、メニューを探して……」という動きを、日常からほぼ無くしました。下は、実際のリッチメニュー(LINEの画面下にいつも出ているボタン一覧)とお知らせの考え方を、ごく簡単な絵にしたものです。
タップで完結するメニュー
締め日が近づくと届くお知らせ(イメージ)
ボタンから、そのまま書類づくりに進めます。 出面をまとめる →
※ 見た目はイメージ。実物は dezura.site をご覧ください。
判断③ 入力は「その場で1回だけ」。写真からも拾えるように
事務所に戻ってまとめて打ち直すのをやめて、現場で起きたその場で、画面を1回押すだけで記録できる形にしました。 手書きのメモは写真からも読み取れるようにして、「同じ数字を何度も書き写す」作業そのものを設計から消すのを狙っています。書き写しは、必ずどこかで間違うので。
判断④ ただの勤怠ではなく「損益が見える」道具にする
一つの出勤記録は、見方を変えると2つのお金につながります。取引先へ請求する金額(売上)と、働いた人へ支払う金額(原価)です。 この2つを同じ記録から扱えるようにして、ただの「出欠の記録」やなく「いくら残るか」が見える道具にしたかった。出面管理を、そのまま経営の数字につなげたかったんです。
5. いまの正直な状態
ほんまは、ここで成果の数字を並べたい。でも出しません。理由は二つあります。
- デズラはまだ、最初の知人ひとりの現場を、丁寧に支えている段階やからです。横展開はこれから少しずつ始めるところで、「広く成果が出た」と言える段階やありません。
- 私が見てるのは時短の分数やなくて、「使い続けてもらえているか」の一点だからです。途中で使われへんようになった仕組みは、どんなに高機能でも失敗やと思ってます。
決まってないことも正直に書きます。たとえば「親方自身が現場に出たときの取り分をどう計算・表示するか」「取引先(元請)側にどこまで見せる画面を用意するか」は、 まだ設計を確定させていません。実際に使う方や同業の声を聞いてから決める、というやり方にしています。 言葉にするなら、「まず1人に深く向き合って、満足してもらってから、その満足ごと次の人へ広げる」。地味です。笑 でも、いまはこれでいこうと思ってます。
6. 業種を問わない「作り替え」の型
これは建設の話ですが、考え方はどの業種でも同じやと思ってます。「すでに動いている仕組みを、続く形に作り替える」ときに私がたどっている手順を、型としてまとめます。
「動いている=直さなくていい」を一度疑う
回っていても、特定の一人に依存していたり、後任に渡せなかったりしたら、それは弱い構造やと思ってます。まず「来年も、別の人でも回るか」を自分に聞きます。
課題を「手間」から「構造」へ言い換える
「面倒」の正体が、増えても回らんことなのか・現場で使えないことなのか・業界特有の事情なのかを切り分けます。打ち手は、この言い換え方でほぼ決まります。
手札を全部出し、却下理由まで書く
既製品・改良・自作――選べる道を並べて、それぞれの不向きまで言葉にします。良い面だけで選んだときほど、後で後悔しました。
「何を載せないか」で設計する
毎日さわる人を基準に、要らない機能は削る。覚えることを減らして、「迷わず終わる」状態をいちばん上に置いています。
運用と改善は、作った側が引き受ける
「導入して終わり」にすると、現場に新しい負担が残るだけです。日々の運用やちょっとした手直しはこっちが背負って、相手には本業に集中してもらう。そこまでやって仕組みやと思ってます。
「いまのやり方、回ってはいるけれど不安」という方へ
特定の一人に依存している。現場で使いにくい。既製のサービスが業界の事情に合わない。
同じことで困ってる人がいたら、まず今の状態を聞かせてください。
高機能な道具を売り込むんやなくて、そもそも作り替えるべきかから一緒に考えます。
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